第3回 青山俳句工場向上句会選句結果

(長文注意!)

第3回向上句会選句結果をお送りします。本誌「青山俳句工場 Vol.3」を見てさっそく投句して下さったみなさん、ありがとうございます。「なぜ横書きなのでしょうか」と、坂間恒子さん。白井健介くんからも横書きはあまり好きじゃないけどと以前メッセージをいただいた。向上句会が横書きなのは単純な理由からです。すなわち処理速度。月に一度のペースで、皆さんからの投句を頂いて表計算ソフト(EXCEL)にリストアップ。これを皆さんに選句していただいて、選句結果も同様にすべて表計算ソフトに打ち込む。選句合計点数順にざっと並べ替えて文字置き換え機能その他を駆使してフォーマットを整える。これを宮崎斗士工場長にファックスして、ホームページ、NIFTY FHAIKU上へアップ。われわれ青山俳句工場がもし伝統俳句に挑戦しているのだとすれば、唯一の武器はもちろん「横書き」にすることではなく、この一連の作業を行うという「労働力」なのではないかと思っています。季節の移り変わりより、時代の移り変わりの方が早い。時代を切り取る言葉こそが、われわれにとってのナイフなのです。

向上句会とりまとめ:山口あずさ@青山俳句工場本誌もよろしくね!


投句:村井秋、足立隆、坂間恒子、山之内拓仙、岡村知昭、西村光一郎、カズ高橋、大須賀S字、千野帽子、久蔦ともみ、やんま、yokot、松山たかし(俳人ホーム)、のじりのどか(俳諧新月座)、あかりや・はにわ(ToT)(以上2名、NIFTY FHAIKU)宮崎斗士・中村安伸・木村ゆかり・吉田悦花・白井健介・五島高資・山口あずさ(以上7名、青山俳句工場)

感想協力:二上貴夫



全体的な感想

村井秋:今回は面白かったです。

木村ゆかり:あずささん、こんにちは。とりまとめご苦労さまでぇっす。今回、並選は5句しか選べませんでした。あと1句は該当作なしということで(^^;ではでは。

はにわ(ToT):こんちわぁ。。。。あずさサン。。。んーーー、またまた お邪魔しますぅ。。。(^^;;そうそう、青山俳句工場Vol.3。。。買ってしまいました。。(笑)で、某国営放送の俳句VS短歌を見てない σ(・_・)は上野公園の写真を見て何方が誰なのかまるっきりわからず仕舞いですぅ。。。。あずさサン向かって右の人??うーーん。。。悩んだ末に 付け句で コメントをしてしまいました。。。。  外道かなぁ? (笑)

帽子:向上句会スタートおめでとうございます。大変でしょうが「頑張れ」と思ってしまいます。vol.3では田中信克さんの雑感がよかったです。もっと読みたい。

岡村知昭:全国から殺到しているであろう選句用紙を前にして、お忙しい中、ご苦労も多いとは思いますが、成功へ向けましてのご健闘を参加する一人として願っています。

足立隆:逆選はあまり選びたくはありませんが、これも句に対する勉強と思いやっています。

坂間恒子:なぜ横書きなのでしょうか。国語の教科書だけは現在もたて書きです。

白井健介:(自身の反省の意味も含めて)正直に言って今回は採れる句が少なすぎて選句規定数に満たない感じだった。(私にとって)訳の分からない句が増えてきたのが気掛かりです。

松山たかし:申し訳ないけど、今回は特選句なし。並選6句をしましたが、ここに入る句はもっと、ありました。「櫛の歯を爪で鳴かせて日の永さ」「公園の木馬に血のり春の菊」など。傾向をいろいろ混ぜて6句にしぼりました。すこし中途半端な選句の仕方でごめんなさい。前2回に比べると、いい句が多かったような気がします。でも、これはという目立った句がなかったなあ。言葉の新しさ、面白さをもっともっと追求しないと、新しい俳句の世界は築けない。一元的な表現も多いなあ。


9点句

春の風ラクダが膝を折りにけり  吉田悦花

特選:あかりや/選:ゆかり たかし 隆 カズ S字 ともみ やんま 
あかりや:春風が吹いてきたとき<ああ、どこかでラクダが膝を折ったのだ>と作者は感じたのでしょう。そこには、あの、前方を向いたまま、予兆なく、不器用で突発的な膝の折り方を、ラクダの韜晦を、わが身に引き寄せて吹かれている作者がいます。それは、宗教以前の素朴な<祈り>とでも呼べるような出来事です。
たかし:動物ものが結構あったのですが、ラクダと春の風の取り合わせが、なんとなく楽しい。
ともみ:らくだとかロバとかは好きです。
ゆかり:ラクダの「かっくん」(擬態語)という感じがよいと思います。
あずさ:シュール。
S字:自然体な詠みぶり、春風のやわらかさが出ている。
健介:いまひとつ物足りない感じがします。あと一歩踏み込んだ描写が欲しいです。
隆:ラクダの休む姿が浮かびます。春の風のそよぎも感じられ、この穏やかさがよい気分です。
カズ:うとうととしてしまいそうです。

8点句

春昼や謝りながら光る川  あかりや

たかし 秋 安伸 斗士 悦花 恒子 S字 高資 
斗士:準特選。「謝りながら」なかなかこうは書けないと思う。
たかし:春昼の間の抜けたのどかさが伝わってきます。完成しているのだけれど、どうもパワーを感じない。
秋:謙譲の美徳と言ったところでしょうか。爽やかで良いなと思いました。
安伸:春昼の川を「謝りながら」と受け取る感性に惹かれました。
帽子:かなり好き!でも「叩かれて川になりきる春の水」を思い出してしまったので、心残りながら取れませんでした。好きです。
S字:みずみずしい表現力。
悦花:「春昼」と「光る川」のイメージが重なっているが「謝りながら」がおもしろい。
恒子:状況がよくわかります。

むらさきに爪染め鳥は雲に入る  吉田悦花

特選:隆 光一郎/選:安伸 あかりや やんま 柘仙 
あかりや:最初、紫に爪を染めるのは<私>と読みました、つまり<失恋>の句であると。しかしそれでは、あの人は去っていった、私はひとり紫色のマニキュアをさしているといった月並み調になってしまいます。やはり、爪を紫に染めるのは黄昏の雲の中へと帰る鳥です。そして、それを思う作者の爪も紫に染まって行くようなそんな思いを感じます。爪の表情には鳥であれ人であれその個体の履歴を感じます。紫色に染まってゆく履歴とともに去るものと残るもの、句を読み返すうちにそんな事を思いました。
安伸:僕の好みからすると、もうすこしすっきりさせたほうがいいようにも思いますが、「鳥雲に入る」という季語の雰囲気を活かした句だと思います。
やんま:なんの象徴か、幻想を呼ぶ
拓仙:むらさきに爪染めてがよいと思った。
隆:この云い切りが素敵です。むらさきの爪が嫌味にならないのは何故でしょう。屹立しています。
光一郎:「むらさきに爪染め」の表現がすてきです。作者のものしずかな、心の安定した暮らしぶりが想像されます。

7点句

花鳥の花の世界で錆びている  坂間恒子

特選:やんま 安伸/選:たかし 隆 光一郎 
たかし:ウラは花鳥諷詠のことでしょうか。何か淋しい、冷たい感じが伝わってきました。
安伸:「錆びている」という一語によって風景がみごとに異化されていると思います。
やんま:現実が 夢幻を 越えて光る ときがある。
知昭:予定調和が嫌になったのですね。
隆:錆びているのは人間でしょうこの場合。釘やら鉄棒やらでは面白くありませんから、花鳥との対比がよいのです。
光一郎:言葉が新鮮で心にしみます。

6点句

花に酔う猫のあくびの奥の空  久蔦ともみ

特選:知昭 S字/選:のどか 柘仙 
のどか:猫を飼っていたので、猫のあくびがどういうものかよく知っている。ああ、なるほど。奥の空というのが、狭い猫の口中にぴったりとくる。
S字:宇宙的な句の広がり、見事。
知昭:あくびでさらけ出される口の中を空と書くことで、生きとし生けるものの体の中の宇宙を見せてくれた一句。酔わせてくれました…。
拓仙:大きなあくびの猫ののんびりしたところが見える。

パンダ眠る野球部員に背負われて  中村安伸

特選:柘仙/選:たかし 斗士 恒子 帽子 
たかし:パンダと野球部員の取り合わせが楽しい。意外性も十分。こんな新しさの追求方法もありますね。
帽子:昔の吉田戦車。と思ったら懐かしくて。
健介:唐突で面白い、意外性がある、ということだけでは佳いとは思いませんので。
恒子:おもしろい句です。しかも野球部員の性格をよくとらえている。
斗士:中村くん?「野球部員」が的確だと思えた。
あずさ:さすが工場長。「俳人中村安伸」を知り尽くしている。
拓仙:パンダ眠るがよいと思った。

花冷えやメロンパンが二つある  松山たかし

特選:斗士/選:ゆかり 悦花 カズ ともみ/逆選:知昭 
ゆかり:これはまさしく客観写生ですね。シンプルさに惹かれました。「花冷え」と「メロン」という語感に、夢見るような心地よさを感じました。淡い色合いも好きです。
知昭:句をどう完成した形にするかがあいまいなままになっているように想いました。(私のことかもしれません…)
健介:「花冷えや」ときて、以下が散文であるアンバランス。気になります。
斗士:メロンパンって確かに見た目、冷えているような感じがある。そして二つあるという華やぎ。巧みに「花冷え」を表現している。
悦花:「花冷え」と「メロンパン」の取り合わせは、なかなか。でも「二つある」だけでは物足りない。
カズ:メロンパンが好きです。だからいただきました。
ともみ:理屈ではなく。

5点句

ロープウェイは真空管なりさくらどき  山之内拓仙

特選:高資 悦花/選:あずさ 
高資:ロープウェイの透明感、真空管の破裂、さくらの開花などが共鳴する。
悦花:一直線に天空に伸びるロープウェイを真空管に見立てて。「さくらどき」の季語も効いている。
あずさ:真空を昇って行きたい。

瓶閉める九九も雷雨も役立たず  岡村知昭

特選:帽子/選:たかし 安伸 柘仙 
たかし:本当はこんな句が好きです、個人的には。特選候補でした。でも、なんとなく、理屈っぽいイメージなんです。
安伸:九九と雷雨をもってきたのは、かなりがんばられたのではないでしょうか。
帽子:「閉め」ているのがいい。「閉まっている」とか「開ける」ではなく。
健介:私は「九九」、役に立つと思ってますけど…
拓仙:九九を持ってきたところでいただきました。

白鳥の死や子供らの眠る頃  大須賀S字

選:はにわ(ToT) のどか 恒子 光一郎 やんま 
のどか:普段は、死だの何だのといった大仰な句はとらないけれど、この句は見た瞬間に、童話世界のような絵が、ぱっと浮かんできた。黒と白と銀で彩る絵だ。寒そうな絵柄だけれども、安らぎをも同時に感じさせるような。
はにわ(ToT) :子供との取り合わせはズルイなぁ
やんま:私も眠っていたでしょう。
光一郎:さびしさ、かなしさが、しずかに伝わります。
恒子:やさしさにあふれた句です。

書記つねに藤棚の下におります  宮崎斗士

特選:ともみ/選:あずさ 恒子 帽子 
ともみ:さらさらとしてやがてかなしい。
帽子:この書記を信用していいのか。そもそもホントにいるのか。ちゃんといてくれるのか。
恒子:書記と藤棚の下のとりあわせ、想像がふくらみます。
あずさ:右筆ってやつでしょうか。

留守番をしていて桜散りにけり  五島高資

選:はにわ(ToT) 健介 隆 光一郎 帽子 
はにわ(ToT) :居眠りしたらぼた餅落ちた
知昭:ひょっとしたらもうある句かもしれない。でも体験するかもしれない。
健介:ただごとなんだけど共感はできます。
隆:ほんのちょいとの間に桜は散ってしまうのです。この句にある何気なさがよいのです。
光一郎:何となく好感のもてる句です。
帽子:ふたつの事象に因果関係を見ているのかいないのか、どっちなんだ?というところが気に入りました。

鋭角ノ自分ガ痛イ桜咲ク  木村ゆかり

選:あかりや はにわ(ToT) 光一郎 ともみ 柘仙 
ともみ:少し意図が露骨ですが。
はにわ(ToT) :菊の開帳おそそ丸見え
あかりや:蕎麦通が、死ぬ前に一度たっぷりと汁をつけて蕎麦が食べたい、といったという落語を思い出しました。
知昭:わかるわかる。でも同情はしないよ。
拓仙:カタカナがよいのかわかりませんが内容はよくわかる。
隆:気持ち分かるような気がします。
光一郎:「自分ガ痛イ」という表現、新鮮に感じます。

咲き満ちし紅梅の昼さるぐつわ  あかりや

特選:ゆかり/選:安伸 斗士 健介 
斗士:「さるぐつわ」が効果的。
ゆかり:団鬼六の小説の挿し絵という感じを受けました。紅梅とさるぐつわの取り合わせは濃いですね。「さるぐつわ」の唐突さが好きです。いろいろと妄想ができる句だと思いました。
安伸:歌舞伎の「金閣寺」は縛られた雪姫の美しさに尽きると思うのですが、この句のもっている雰囲気はそれを思わせるものです。
帽子:団鬼六?という平凡な読みかたしかできないのは句のせいではなくこっちが悪い。
健介:イマジネーションを掻き立ててはくれるが、その意図が見え見えの思わせぶりが少々鼻に付く。でも基本的には好きな世界。

川底に古文書はまた産卵す  中村安伸

特選:恒子/選:のどか カズ 帽子 

帽子:またか!ホントにしょうがないなあ古文書ってヤツは。
カズ:古文書という表現がとてもうまい。
恒子:発想がなかなかのものです。
のどか:DNA。数多の卵たちは、数多の生命情報を伝える古文書のようなものかもしれない。

4点句

櫛の歯を爪で鳴かせて日の永さ  千野帽子

特選:はにわ(ToT)/選:健介 S字 
はにわ(ToT) :黒板摺りしガラスを掻きし
S字:表現の上手さ。
健介:私なら「日永かな」にすると思うが、そのようにしたくない場合でも「日の永さ」よりは「日の永き」の方がいいのでは?
隆:この句好きですが、爪で鳴かせて、の鳴かせてに作為を感じます。

火取り蟲山家のバーの出会いかな  やんま

特選:健介/選:あかりや 秋 
秋:セピア色の思い出ですね。
あかりや:火取り蟲は独り虫人恋しさを鄙の人。<山家のバー>に気持ちよくだまされます。
健介:良い出会いであられることをお祈りいたしております。

口べたな男と交わす春の虹  山口あずさ

選:はにわ(ToT) ゆかり のどか 斗士 
のどか:この句には、女の優しさが感じられる
ゆかり:七色の視線でしょうか(うーん、陳腐な読みだ)。虹といえば、美しいけどすぐ消えてしまうもの。「春の虹」はそれに輪をかけているような感じです。恋の危うさをも孕んで、美しい句だと思いました。
斗士:俺も口べただから、春の虹を交わしてほしい。
はにわ(ToT) : なめくじ溶ける唾液塩味

白木蓮を東西南北から責める  坂間恒子

選:ゆかり 知昭 カズ 高資 
ゆかり:白木蓮なら四方責めに耐えられそうです。
知昭:どう責めるんですか?と言いたくなりました。ほんと「責める」は効いてます。
隆:字余りは意識してでしょうか。責めるという危うさ好きです。
カズ:道に迷ったら木蓮で方向がわかるそうです。先輩に教えてもらいました。
あずさ:カズさん、どうやったら方向がわかるのかわたしにも教えて下さい。

久作忌令嬢に指生えてをり  千野帽子

特選:あずさ/選:ゆかり 斗士 
ゆかり:令嬢に指が生えているのは普通のことなのですが、「久作忌」とあわさると、お嬢様のとんでもないところに指が生えていそうです。
あずさ:令嬢に生えている「指」。わざわざ生えるというからには、尋常な指ではないのだろう。どんどん伸びてゆく指だったりして。もしかして「親指P?]
斗士:「だから何だ」と思う前に、納得してしまった。
隆:久作忌と令嬢はややつきすぎと思いますが指生えてをりはあやしい世界が出ている。

三月の姉の化粧は筆談めく  中村安伸

特選:秋/選:あかりや あずさ/逆選:恒子 帽子 
秋:三月が動くようで動かない。適齢期のお姉さんの色気を筆談めくとはうまい。
あかりや:<三月の>が有効かどうかは疑問ですが、姉の化粧が筆談めくというとらえかたは説得力があります。
帽子:親族名称を使われると、読みを制限されるというか「日本人に共通する部分」に連行される気がときどきして。「めく」もちょっと。
知昭:念入りにやってるのでしょうね。そう怖がらないで。
隆:三月か否かは別にして筆談ととらえた所がよいです。きっとデートの前なんでしょうか?
あずさ:美しそうな姉だ。
恒子:座五が手柄であり発見ですが、しかし底が割れてしまったと思います。

3点句

卒業や流した体液100cc  はにわ(ToT)

選:のどか 悦花 カズ 
のどか:体液100ccという表現の諧謔性に、一票
知昭:クールなのかウェットなのか「体液100cc」の取り方によって変わりそうですね。
悦花:「100cc」が多いのか少ないのか、よくわからないが「卒業や」のストレートさに魅かれた。
カズ:ほんとうですか。めずらしいなー。
健介:お疲れさまでした。

夫婦の黙ピラカンサスの房ぎっしり  村井秋

選:あかりや 健介 恒子 
あかりや:<黙>と<ぎっしり>が効いています。関係ないですけど、夫婦と言う字を見るたびに夫と婦の間にスラッシュを入れたくなります。
知昭:黙っている夫婦とピラカンサスの房との取り合わせが「重たさ」を生み出しているように思います。
健介:ピラカンサスが季語かどうかわからないんですが、「ぎっしり」がなんとなくいい感じです。
恒子:<黙>がいいすぎかと思いますが、ピラカンサスが強烈な印象です。

雪の夜の竹林に力瘤あり  五島高資

特選:カズ/選:悦花 
悦花:ちょっと類想感あるが。「竹林にある力瘤」としては?
カズ:うまいのひとこと。北島三郎さんの歌がきこえた。

如月の紙がナイフとなりにけり  足立隆

選:知昭 S字 やんま 
やんま:久々に空を見る気にさせてもらいました。
S字:空気のかわきがみえるよう。
知昭:「ナイフ」の三文字には当分過剰反応しそう。作りづらいですよ。句自体は紙で指切る様がよくわかります。
健介:紙で指を切った、ということであるなら表現がオーバーでは?
帽子:イテテテテ。

露天風呂わかしているよ蝉しぐれ  西村光一郎

選:健介 あずさ 柘仙 
健介:言い回しが幼稚な感じだけど、雰囲気は出ていますよね。
拓仙:蝉の声がわかしていると見たところでよいと思う。
光一郎:さびしさ、好きな句です。
あずさ:沸きますね。みーんみーんみーん。

風船はときおり雨をつれてくる  久蔦ともみ

選:あかりや 知昭 やんま 
あかりや:ああ、ふうせんは<風>の<船>なのですね。
帽子:こういう情報量の少ないのもかなり好みなんですが、なにせ七句しか選べないので、今回はごめんなさい。
やんま:風も雨も春の匂いがします。
知昭:メルヘンの舞台裏を見せてくれたような句。でも言われてみればそうなのかもしれません。参りました。
健介:もろに散文ですね。内容にもっとインパクトがないと…
隆:そういうことってあるかも知れません、と思わせられます。

南天や地球が燃える日を泣けり  五島高資

特選:のどか/選:斗士 
のどか:あ、なるほど……と思ってしまった。なんだか、燃え上がって泣いているような気が、たしかにする。
斗士:「泣けり」がキマった。

鳥曇り誰かが消える百貨店   あかりや

選:隆 知昭 ともみ/逆選:安伸 
ともみ:妖鬼妃伝ですか。
安伸:この句がいちばん悪いというわけではありません。「誰かが消える」という発想はとてもありきたり。
知昭:婦人服売場の試着室の床がいきなり落ちて…という話を思い出しました。
健介:推理劇の始まりでしょうか?
隆:百貨店には異次元への入口がある。あっても不思議ではない。

2点句

武蔵野の花に吹かれて右往左往  のじりのどか

選:はにわ(ToT) たかし 
はにわ(ToT) :花を求めて五里霧中なり
たかし:右往左往が効いています。ユーモラスにも、悲惨にもイメージができます。

春の駅レプリカントに紛れ込む  木村ゆかり

選:悦花 ともみ 
ともみ:バーチャルですね。
悦花:「春の駅」と「レプリカント」がいい感じ。透明感がある。
帽子:「レプリカント」という語はいま使うと一番ヤバイ程度の賞味期限切れ具合ではないでしょうか。
あずさ:ブレードランナー。

地下街に育ち桜湯飲み込めぬ  岡村知昭

選:安伸 帽子 
安伸:地下街と桜湯のとりあわせもみごとですが、単なるとりあわせにせず、前半と後半に強引な因果関係をむすんだのが、この句の場合きもちいいと思います。
帽子:べつに自分のこと言われたわけでもないのに、そうだよなあと思ってしまった。
あずさ:因果関係が明解すぎるように思いましたが…。

綿棒で口喧嘩する春の夜  宮崎斗士

選:あずさ 帽子 
あずさ:綿棒のことで口喧嘩するのか、綿棒を用いて口喧嘩するのか。後者のような気がする。。。なんか、エロチック。
帽子:ちょっと立ち聞きしてみたいケンカです。でも耳の中までケンカを持ち込むのはナシね。

妖かしの繭を紡ぎて帯とする  やんま

選:のどか S字 
S字:妖艶。

恋の玩具です夜のフラココ  村井秋

選:健介 柘仙 
健介:「フラココ」はひらがなの方が私は好きです。私も「恋の玩具」、いろいろ愛用してます。
拓仙::少し常識的ですが、気持ちはよくわかります。

月おぼろ死ぬまでマズルカ踊ります  木村ゆかり

選:秋 恒子 
秋:人間一生踊らされているのかもしれません。なにに???。
健介:そうですか…ではお止めしません。
知昭:「頑張って」なんて言いませんよ。
恒子:おぼろ夜は切ないから、この気分わかります。
あずさ:赤い靴。

春休み三人寄れば牛丼屋  白井健介

特選:yokot/逆選:斗士 カズ 
yokot:のんきで平和な学生時代の貧乏な彼氏を思い出しついくちずさんでしまいました。ほのぼの。
帽子:こういう人間関係も「好いたらしい」。いいですねー。
知昭:「三人寄れば」ってよく国民性の違いを説明するときに使うジョークがありますけど、うーん、どこの国か?
斗士:どういうことを伝えたかったんだろう。
隆:牛丼屋に俳味があるといえばあるが、やや易きに流れているのではないか。
カズ:月刊宝石にある創句ぽい。

1点句

おひなさま嫁にいってもとしとらず  yokot

選:あずさ 
あずさ:「おひなさま」が「とし」をとらないのは当たり前だが、わたしには、嫁にいっても相変わらずモラトリアムを続けている往生際の悪い友人が複数名いる。きわめて現代的な俳句のように思えた。

いぬふぐりソラ色の空撫でてみる  大須賀S字

選:やんま 
やんま:我が家も郊外で、空は空色です。

パンジーを抱きし茶髪吾子じゃがね  山之内拓仙

選:知昭 
知昭:「じゃがね」が実にいいです。親の子に対しての想いが温かさといっしょに伝わってきます。
健介:おお、そうじゃったかね。

犬けしかれられるも太陽南中す  岡村知昭

選:ともみ 
ともみ:「も」がいい。

水虫の足が冷えます春の河馬  松山たかし

選:カズ 
ゆかり:河馬といえばどうしても坪内ねんてんを連想してしまいます。
帽子:稔典さんがここに?
知昭:まさかとは思いますが、坪内氏が乱入してきたということはないでしょうね!!
カズ:稔典さんの句を思いだした。
あずさ:皆同じこと言ってる。。

公園の木馬に血のり春の菊  はにわ(ToT)

選:隆 
隆:木馬だから血は流さないので、何の血か誰の血か、しかし血のりというのは説得されます。春の菊も効いています。

行儀てふもの失せ開花はじまる国  白井健介

選:隆 
隆:開花は毎年のこと、年毎に行儀が失せて行く、そういう国に我らは住む。

ふみづかい今日は百合鴎が競う  坂間恒子

選:安伸 
安伸:ふみづかい、百合鴎など言葉そのものが持っているイメージを存分に活かした句。
カズ:嬉しいことがきっとあったのでしょうね。

冬の朝火照った頬を窓におしつけ  yokot

選:秋 
秋: 映画の1シーンを見ているようです。
知昭:ドラマの始まりを見るか素通りするかで評価が決まる句。私は素通りしました。
健介:字余りなこと、まだ続きがありそうな感じのする言い回し、気になります。内容はちょっといいんだけど…

かまくらや母のこだまのするような  大須賀S字

選:光一郎 
光一郎:南の国に住む私ですので、かまくら、そして、母のおもいで、心打たれます。

泣き虫の涙は青む芝であり  山之内拓仙

選:秋 
秋: 泣き虫を見る作者の眼差しが温かい。

「頑張れ」なんていはない桜餅匂ふ  吉田悦花

選:秋 
秋: 言いたいけれど言わないという気持ちが伝わってきます。
帽子:「頑張れ」ってあんまり言われたくないので、ちょっとこれ好きです。
健介:「頑張れ」ってホント、気の利かない台詞だと私は思います。

やける地にみみずくぎになる  カズ高橋

選:S字/逆選:柘仙 
S字:感覚が新鮮。
知昭:「灼ける」で十分いいと思うんですけど。
拓仙:下五は漢字じゃないとわかりにくいと思う。最初「みみずく」かと思った。中七にしてほしい。
二上貴夫:写生もあるし、出来れば七七の短句で決まればもっと面白かったが、余計なもの無くていいんじゃない。

輸送船接岸仏滅大安  カズ高橋

選:悦花/逆選:はにわ(ToT)  
はにわ(ToT) :新型魚雷発射準備完了
知昭:哀れなるはプルトニウム輸送船。ま、あれだけの毒ですからね…。
悦花:「仏滅大安」がイマイチ。「接岸」のカタイ言葉をもっと生かしてほしかった。

結ばれる木蓮の香の放課後に  宮崎斗士

選:はにわ(ToT)/逆選:健介 
はにわ(ToT) :腋臭のかほりジャスミン系
健介:こんなこと俳句にせんでもええから好きにせえや!

ゲロを食べている寒雀  カズ高橋

選:知昭/逆選:ゆかり 悦花 S字 やんま 
ゆかり:並選にするか逆選にするか、たいへん迷いました。「ゲロ」の読み方で迷ったんですが、私にはどうしても「ゲロ」という言葉が「受け狙い」というのを醸し出しているように思えました。それでちょっと生半可な感じを受けたので逆選とさせていただきました。
やんま:不潔!
S字:品が無い。
知昭:ミもフタもないただのウケ狙いの句と考えるのですが、初めて読んだとき、大笑いしてしまいました。アナタの勝ち。
健介:きっと事実なのでしょう。たとえほんとうのことであっても採りたくなる要素がありません。
悦花:ゲロゲロ。

その他の句

初蝶はワルツでありし午後三時  白井健介

あずさ:春風献上って感じかな。

引越しの荷物あふれて卯月かな  のじりのどか

健介:「引越し」というのはそういうものなんじゃないかなあ、ふつうは。

自分より長生きするものみんな永遠  山口あずさ

あずさ:(自解)けっこう深いこと言ったつもりだったんだけど。。。

生きるとは百日紅(さるすべり)の花赤い  西村光一郎

健介:(白色の花もあるそうですが)「百日紅」と言うぐらいですから「赤い」などと言わなくてもよいのでは?

はすかいの夕刊フジにどくろ巻く蛇  村井秋

あずさ:「どくろ」は「とぐろ」の間違いではないかと思うのですが…。

めらめらと炎の形とりて消ゆ  やんま

知昭:何が?と言われること間違いなし。だけど消えたんですよね。

春雨じゃおたふく風邪の人と行こ  松山たかし

知昭:<パンジーを抱きし茶髪吾子じゃがね>と同じ人でしょうか。それとも「春雨じゃ濡れて行こう」の方でしょうか。
あずさ:おたふく風邪の人、死んじゃいそうですよね。

春眠にしあわせはこぶウシガエル  yokot

ゆかり:春眠そのものがしあわせなのでは。
健介:どういう「しあわせ」かを表現してくれるのが俳句なのでは?

不正処理パソ蹴る男の春闘や  はにわ(ToT)

知昭:「春闘」は「メーデー」ともども季語としては消えるかもしれないけれど、パソコンけとばす人は確かに現実。

穀糞のいとやはらかき弥生尽  のじりのどか

健介:「穀糞」の読み方と意味がわかりませんでした。
隆:深く考えて、じっくり読むとだんだん糞の効果があらわれるが、さらっと一読の方がよい。

如月のパンチ空切る矢吹健  足立隆

知昭:丈と比べたら健はいまいち。雅と比べたら…どうかなあ。
健介:矢吹丈って人なら知ってるんだけどな…(字が違ってる?)「矢吹健」って誰でしたっけ。
隆:「あなたのブルース」の矢吹健。今は何を唄っているのでしょうか(自解)

人指で串刺しにせよ買春夫  山口あずさ

あずさ:援助交際シリーズ俳句だったんですけどね。。。

病もつゴリラのなみだ花時雨  久蔦ともみ

逆選:あかりや 
あかりや:<病もつ>と書いてしまうところが、この句のみならず今回の句会の傾向のように思います。この句は<ゴリラのなみだ花時雨>がすべてです。これならば私は採ります。
帽子:涙と雨がちょっとぶつかり気味。病と涙も。
健介:もろに御涙頂戴の感じなのはちょっと苦手なので…「花時雨」というのはあまり使われないのではないかな?

四月馬鹿cogitoにつける薬なし  千野帽子

逆選:秋 
秋:cogitoに一般性があるでしょうか。辞書で調べたらデカルトの言葉の一語ラテン語なのですね。ああ cogitoにきりきりまいして辞書など引いているのを四月馬鹿といっているのかな。一本取られたのかも知れない。やっぱり逆選です。
知昭:哲学者の本質をグサリ。
あずさ:cogito, ergo sum《我おもう、故に我あり》デカルト。

法華経(ほうけきよ)ほうけきよ山伏谷山の鴬  西村光一郎

逆選:隆 あずさ 
隆:ちょいと遊びすぎです。過猶不及であります。
あずさ:昔の人の耳に「ホウホケキョ」は、法法華経、「ブッポウソウ」は、仏法僧と有り難く聞こえてしまったのだという話を聞いたことがあります。付き過ぎというよりそのまんまなのではないかと…。